1.童話と伝説
2. グリム兄弟の業績
3.童話の収集
4.「シンデレラ」
5.「蛙の王さま」他
6.「千びき皮」とオイデプス伝説
7.ドイツのある大学からの依頼
Märchen に関することで、小生も、ひとに頼まれて、少し手助けをしようとしたが、
失敗をしたことがあります。
1991年の春に、ドイツのある大学から依頼がありました。
「世界のいくつかの地域(ドイツ、チュニジア、ブラジル、日本)の子どもたちに、
あるひとつの課題を与えて、スケッチをさせ、
ついで、その出来あがった諸作品について、
多角的に比較分析を試みる、ということを計画している、
ついては、日本もこのプロジェクトに協力をしてもらえないか」、
と言ってきたのです。
その大学の心理学研究所内の発達心理学の講座からです。
もう少し具体的に述べれば、
その講座の学生が、Drachenmärchen (Dragon story) という表題の
Kunstmärchen (創作童話)を書いてみた、ということです。
その物語の内容は、
「ある双子の小さな姉妹が、ふとしたことから、竜の住んでいる洞穴に入りこむ」、
という話であるが、
ただし、筋書きは、途中までで、終わりがない、
つまり「未完の物語である」、ということです。
そして、「この尻切れトンボの話を子どもたちに話して聞かせたら、
かれらは、いったい、どのような結末を想像するのだろうか、
それを絵でもって表現させてもらいたい」、ということでした。
それで、つたない翻訳ですが、日本語に直して、
市内のとある幼稚園に頼んでみました。
そこの園長先生が、快く承諾をしてくださり、担任の先生方で手分けをして、
ふたクラスぐらいの園児たちにこの物語を語って聞かせ、
ついで、絵を描かせてくれました。
こちらの勝手な願いを、快く承諾してくださって、
労力を惜しまず、子どもたちに取り組ませてもらえたのは、
たいへんありがたいことでした。
しかし、ただ、どうしても残念だったことは、
出来上がった園児たちの作品が、おしなべて、
「未完の、途中までの話を、そのまんま、絵にしただけのものであった」、
ということです。
幼稚園の先生が言うには、
子どもたちに、要求された通りのことをさせるのは、
まだ幼いから、無理と思えたので、
途中までの話を、そのまま絵に描かせるに留めた、
とういうことでした。
この実験の着想はなかなかよかった、と思うのですが、
やはり小さな子供には、ほんとうに無理な要求だったのか、
あるいは、
見当違いの邪推かもしれませんが、
子供の奔放な想像力にすっかり委ねてしまうと、少々具合の悪いところがあるのか、
そのへんのところは定かではありませんけれども、
こちらの願いのとおりに、してもらえなかったことは、
かえすがえすも、残念なことでした。
とにかく、そのようなわけで、
この試みは、日本に関しては、正直に言えば、失敗に帰した、というわけです。
それでも、せっかく努力して描いてくれた子供たちの作品ですから、
丁寧に包装して、ドイツの、かの大学へ送ってやりました。
向こうも、少し残念がってはいましたが、
それでも、何日間か、大学のホールで、展示をしてくれたようですし、
少なくとも、
「このときのプロジェクトの中間報告書の、その表紙を飾る役目はしてくれた」、
という次第です。(下図参照)
Braunschweig,
im Juli 1992
ついでに、子どもたちに話して聞かした未完の物語(翻訳)を、以下に、付け加えておきます。
付録: ある竜のおはなし ( Drachenmächen )