1.童話と伝説
2.グリム兄弟の業績
3.童話の収集
4.「シンデレラ」
5.「蛙の王さま」他
6.「千びき皮」とオイディプス伝説
また、次のようなタイプの作品もある。
ある王さまのお妃が、若くして病死するのですが、
そのお妃は、死ぬ前、夫である王に、
「もし再婚するときは、
自分と同じぐらい美しい女性とでなければならない」ことを約束させます。
王は、それほどの女性には、以後、会わなかったのですが、
あとに残された子供は、成長すると、母親そっくりの美しい娘になります。
すると、この王さまは、「自分の娘に恋焦がれて、果ては、結婚をせまる」、
というところがこの話の始まりです。
これは、
タイトルが「千びき皮」Allerleirau (あらゆる種類の獣で作った毛皮)(KHM65) という物語で、
この娘は、幸い、何とか父親から逃れ、最後には、幸福な結婚をします。
この話の導入部分の、父と娘の関わりは、
要するに、「近親相姦のモチーフ」なのですが、
それが、かなり明白に表現されているところが特徴です。
この問題は、
じつは、ヨーロッパの伝承文学には、ずいぶん古くからある 、有名なものであって、
その源泉を探れば、
中世時代へ、さらにはギリシア・ローマの時代にまで、遡ってゆきます。
たとえば「グレゴーリウス(グレゴール)伝説」というのがありますが、
これは事情があって捨てられた息子が、放浪の旅の末に、
「それと知らずに生みの母親と出会い、関係をもつ」、
という話で、
その一件の後に、主人公の「人間の極限にまで至る贖罪」の物語へと続きます。
そして、遂には、「ローマ教皇になる」、という話です。
ハルトマン・フォン・アオエというドイツ中世の詩人が、このテーマを扱っていますが、
このテーマは更に時代を遡って、
ギリシアの「エーディプス(オイディプス)伝説」へと繋がるものです。
オイディプスの場合には、その母親は首を括り、
オイディプス自身は我が両目を突き刺して、盲目のうちに世をさすらう、
と描かれています。
Ödipus und Sphinx
450-440 v.Chr.
Boston,
Museum of Fine Arts.

Aus:
Der Neue Brockhaus.
F. A. Brockhaus,
Wiesbaden 1979
さらに、この問題について付け加えれば、
ドイツの現代作家トーマス・マン(1955年没)は、
グレゴーリウス伝説に新たな解釈をほどこし、
この罪には「 subliminal な認識」、
「潜在意識における認識」というものが、もしやあったのではあるまいか、
つまり、この女性は「もしかしたら母ではあるまいかという認識」が、
「意識の奥底のどこかに潜んでいたのかどうか」、
というような描き方・解釈をしております。
7.ドイツのある大学からの依頼