|
|
比較文法(ドイツ語と英語)
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
話法(あるいは叙法:Modus, 英 mood )とは、話し手が、ある動作や状態を表現する際の思考方法の差異のことであり、言い換えれば、話し手がある事柄について述べる場合に、あれこれの立場ないし心的態度を取るが、そのような思考形式の相違に応じて動詞のかたちを変化させることである。
この話法には英独ともに3種類ある。
(1) 直接法(Indikativ; Indicative mood): 話し手がある事柄について、そのまま事実と認めて(表明して:indicate)叙述する場合に用いる様式である。
(2) 命令法(Imperativ; Imperative mood): 話し手が、相手に対し、自分の意思を命令や禁止などによって述べる様式で、二人称の現在形のみゆえ、形式は単純である。
(3) 接続法(Konjunktiv; Subjunctive mood): 話し手がある事柄を、事実としてではなく、想念上のこととして表現する様式、つまり、要求や願望を述べるとか、第三者の発言を引用する場合とか、仮定でものごとを表現したりするときに用いる様式である。
形式の区別:
ドイツ語における接続法の形式には、第1式と第2式とがあり、第1式は直接法の現在形を基にして作られており、第2式は直接法の過去形を基にして作られている。第1式と第2式はそもそもは時称的な区別であったようだが、現実に近いか遠いかの話法的区別に変った。つまり現実に近い要求は、直接法の現在形を基にした話法(第1式)を用い、現実からは遠い、いまや帰らぬ事象への願望は直接法の過去形を基にした話法(第2式)を用いるということである。
英文法では、この第1式に当たるものを仮定法現在、第2式を仮定法過去と呼んでいるので、紛らわしいところがあるが、この二つの話法(第1式と第2式)は、テンス(時制)の区別ではないということが肝心な点である。
接続法の意味および用法について:
接続法は、上の(3)で触れたように、そもそも話し手の想念上のこと、つまり主観的な思考を表現する様式であり、従って本質的には従属文である。そしてその内容は、「〜のことを要求する、〜という話だ、〜と仮定する、〜と推論できる」などの(実質上の、ないしは、言外の)主文に接続をしている。このことが大きな特徴である。
|
(Ich fordere; Ich wünsche,) Gott helfe ihm. |
(I request; I pray to God) God (may) help him. |
(Man sagt,) sie sei krank. |
(They say that ; I have heard that) she is ill. |
(Wenn man annimmt,) ich wäre ein Vogel, (so kann ich folgern,) ich flöge zu dir hin. |
(Let us suppose that) I were a bird, (so I can guess that) I could (would) fly to you. |
|
この例のように、接続法はある種の主文に接続するための動詞の様式であり、この接続ということが重要なファクターゆえに接続法 (Konjunktiv, Sujunctive) と呼ばれる。そして、上のような、大別して三つのパターンがドイツ語における接続法の主な用法ということになる。それぞれ、要求話法、間接話法、非現実話法、と呼ばれている。
ちなみに英語の Subjunctive mood も「(従属的に)接続させる様式」という意味である。従って、これを「仮定法」と呼ぶのは忠実な訳ではないと思うが、これは狭い意味で内容を解釈し、命名したのであろう。
なお、付け加えて言えば、英語においては、中世英語以来、直接法と接続法がほとんど同形となってしまった。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
命令・願望・認容など、何らかの要求を表現する場合、話し手は実現の可能性を期待しているので、接続法第1式を用いることになる。
ただし、現代ドイツ語においては、こういった内容は命令法あるいは話法の助動詞を用いた直接法で表現することが多くなっている。 英語では、この要求話法は、現代ではもはや一般的なものではなく、古くからの表現にわずかにその名残りをとどめているだけである
次に、内容的に分類し、例をいくつか示す。
1) 実現可能の願望
|
Lange lebe der König! |
Long live the king! / May the king live long! |
Das Neue Jahr bringe dir viel Glück! / Möge dir das Neue Jahr viel Glück bringen! |
May the New Year bring you much happiness. |
|
ただし、英語では may + 不定詞 でも既に古風な言い回しとなってしまい、話しことばでは hope や will を使った表現になっている
2) 命令・要求
ドイツ語では、2人称に対する命令は命令法を用いるが、1人称と3人称は命令法を欠いているので、接続法を使用する。Mod.E では shall の使用、あるいは let + 不定詞で命令を表現する。
|
Gehen wir auf den Hügel! |
Let us go on the hill! / Shall we go on the hill? |
Sie komme gleich! |
Let her come at once! / She shall come at once! |
|
この場合、倒置法にするのは直接法とはっきり区別するためと見られる
3) 認容
これは日本語の命令が転じて認容になるのと同じである。よく助動詞 mögen が用いられる。英語でも文語では may が用いられているが、口語では一般に直接法で済ます傾向にある。
|
Was er auch sagen möge, er wird es nicht ändern können. |
Whatever he may say / Whatever he says, he won't be able to alter it. |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
直接話法 (direkte Rede; Direkt Narration) が人の言ったことばをそのまま伝えるものであるのにたいして、間接話法 (indirekte Rede; Indirekt Narration) はひとの言ったことばの趣旨を、話し手が自分のことばに直して間接的に伝えるものである。
人の話であるから、事実とは限らないが、その可能性はある、として伝える。従って、現実への関わりということで、ドイツ語では、原則的には接続法の第1式を用いる。
Mod.E においては、間接話法に接続法を使わず、直接法で表現している。イギリス人の感覚では、人の話を伝達するとき、それを事実として認識しているからであろう、という説がある。
Er sagt, die Uhr sei sehr teuer. |
He says (that) the watch is very expensive. |
|
|
|
J. M. W. Turner
Turner dans son atelier
2. Viertel des 19.Jh.s
British Museum
|
|
|
1) 時称:
英語においては時制の一致 (sequence of tenses) という習慣があり、例えば主節の動詞が過去の場合に、従属節の動詞の時制がそれに応じて変わるが、ドイツ語では、英語と異なり、地の文と引用文との時称はまったく無関係である。
|
Sie sagte, sie sei müde und wolle zu Bett. |
She said she was tired and wanted to go to bed. |
Er sagte mir, daß er sogleich zurückkommen werde. |
He told me that he would be back at once. |
|
2) 独立用法
ドイツ語の間接話法では必ずしも、「彼は言った」などの主文が先行しないことがある。繰り返しを避けて、省かれることも、ままある。これは、省いても、接続法(第1式)が使用されるため、間接話法であることが明白であるからである。
|
Er sagte mir, er sei krank; er habe sich eine starke Erkältung geholt. |
He told me he was ill, that he had caught a severe cold. |
|
ついでに言えば、ドイツ語においては引用文には接続法が使われるため、例えば論文などでは、著者自身の意見か、あるいは他者の考えなのであるのかは、明瞭に区別がつく。英語であれば and that とか he added, he continued などを付け加えないと、紛らわしくなる。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
非現実話法は、実現性のきわめて少ないこと、あるいは事実に反することをその内容としているため、ドイツ語においては、直接法の過去形を基にして作った接続法第2式が用いられる。英語においても、この分野では仮定法過去(ないし過去完了)がかなり使用されている。
|
Wenn ich viel Geld hätte, kaufte ich mir ein neues Auto. |
If I had much money, I would buy a new car. |
Wenn ich viel Geld gehabt hätte, hätte ich mir ein neues Auto gekauft. |
If I had had much money, I would have bought a new car. |
|
1) 結論部(主節)における「würde + 不定形」:
ドイツ語でこの形が用いられるようになっったのは15世紀ごろからであるが、弱変化動詞の第2式が直接法過去と同形のため、その区別をつける必要が生じてきた、と言われている。この würde + 不定形 のタイプを特に「条件法 (Konditionalis)」と呼ぶ文法家もいるが、このかたちは英語の would + 不定形 と同形であり、フランス語などロマンス語系統に見られる条件法 (mode conditionnel) とも通じる。
|
Wenn er nicht krank wäre, so würde er kommen. |
If he were not ill, he would come. |
Wenn er Zeit gehabt hätte, so würde er es getan haben. |
If he had had time, he would have done it. |
|
2) 前提部(条件節)における wenn の省略:
ドイツ語では、語調を強めるため、wenn はしばしば省略される。英語でも省略されることがあるが、それほど多くはない。
|
Liebte sie wirklich ihren Mann, so würde sie nicht so gehandelt haben. |
If she truly loved her husband, she would not have acted so. |
Hätte ich das gewußt, so würde ich gekommen sein. |
Had I known this, I should have come. |
|
3) 他の語句による前提部の置き換えは、ほぼ英独に共通:
|
Ohne ihn wäre ich längst verhungert. |
Without him I would have starved long ago. |
An Ihrer Stelle, so hätte ich das nicht getan. |
In your place I should not have done it. |
|
4) als ob, als wenn (as if, as though)
接続法第2式が原則、そして、副文の内容が事実の可能性を持つときは第1式、とも言われているが、実際にはかなり自由である。
|
Er tat so, als ob er davon nichts gewußt hätte. /
Er tat, als hätte er davon nichts gewußt. |
He acted as if he had known nothing about it. |
|
ドイツ語においては ob がよく省略される。現代英語では、省略しない。
5) 語調を和らげた丁寧な表現:
接続法第2式の用法のひとつで、外交的接続法 (diplomatischer Konjunktiv) とも呼ばれる。英語では仮定法過去(フランス語では条件法現在)を使用。
|
Es wäre besser, wenn Sie gingen. |
It would be better if you go. You'd better go. |
Das könnte gefährlich sein. |
That might be dangerous. |
Ich möchte gern mit Ihnen sprechen. |
Ich möchte gern mit Ihnen sprechen.
I should (would) like to speak to you. |
|
なお、ich möchte は I'd like to と同様、口語で頻繁に用いられる。フランス語の Je voudrais も同じ。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|