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比較文法(ドイツ語と英語)
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たとえば schneien とか wehen のような動詞は、主体がぜんぜん存在しないか、あるいはどこか漠然としている、そういう現象を表現するものである。このような動詞は、むかしは、主語なしに用いられていたが、その後 S+V という形式が支配的になり、これらの動詞も、単にかたちを整えるために、主語として、形式上 es を添えるようになる。このほとんど内容を持たない es を主語とする動詞を非人称動詞と言う。
このような es は、英文法では人称代名詞 (Personal Pronoun) it の特別用法の一つとして Impersonal 'it' と分類されている。
ドイツ語の非人称動詞は大きく3種類に分けられる。
1) 自然現象を表わすもの:
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Es regnet. |
It rains. |
Es ist warm. |
It is warm. |
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自然現象を表わす場合の es は省かないが、述語が名詞の場合は、文頭以外は省略可能。
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Es ist heute Sonntag. |
It is Sunday today. |
Heute ist Sonntag. |
Today is Sunday. |
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なお、A の場合、today は副詞で、そもそもは to-day「(この)日-に」に由来する。
B の場合の today は、すでに名詞と見なされているが、ドイツ語の heute は、この場合でも副詞である。
自然現象を表わす場合は、英語でも上の例のように、非人称の it が用いられうるが、しかし英語では一般に具体的主語を求めようとする傾向が強いため、しばしば言い換えがなされる。
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Es war dunkel im Zimmer. |
It was dark in the room. → The room was dark. |
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2) 人間の感覚・生理現象を表現するもの:
これらは人間の意志ではどうにもならないところがあるゆえ、一種の自然現象と見なされている。
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Es hungert mich. |
I am hungry. |
Es freut mich. |
I am glad. |
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英語の場合は、具体的な主語であるところの人間がおもてに出ている。そして、この種の非人称動詞は、ドイツ語でも、人称主語を使った表現へと移ったものが見られる。
I dreamt last night. |
Es träumte mir heute nacht. → Ich träumte haute nacht. |
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これは、今まで神秘的で漠然としていたものが、文明の発達とともに、人間の自発的な行為として考えられるようになってきたことを示している、と解釈されている。
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それでもドイツ語は、現実的かつ具体的な言語である英語に比して、多分に感性的なところを言語特徴として持っている:
Als es an der Tür schellte, glänzte es in Ellis Gesicht. |
At the sound of the door bell Elly's face shone. |
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3) 運命・偶然などによる現象を表現するもの:
Es gibt immer Ausnahmen. |
There are always exceptions. |
Wie geht es Ihnen? - Danke, es geht mir gut. |
How are you? - I'm fine, thank you. |
Es steht sehr gut mit ihm. |
Things go very well with him. |
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やはり英語では、具体的なもの、現実的なものを主語にすることが多いように見える。
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Jan van Eyck
La Vierge du chancelier rolin (vers 1435),
Paris, Musée du Louvre
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1) 紹介の es ―「それは〜である」と物を紹介するときの es 。英語では it。
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Wer klopft an die Tür. Es ist der Briefträger. |
Who is knocking at the door. It is the postman. |
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「それは私です」というように、述語が人称代名詞のときは、ドイツ語では人称代名詞が先置され、動詞は述語に従う。
英語では14世紀頃から述語の人称代名詞が後に置かれ、動詞は it に従う。S+V という観念から、主語そして動詞の並びと捉えている。
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Wer ist da? - Ich bin es. / Das bin ich. |
Who is there? - It is I. → It's me. |
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It's me. となってきたことには諸説がある。仏語の影響、独立代名詞を好む、etc.
2) 述語としての es:
この場合の es は守備範囲が広く、前述の名詞、形容詞、動詞あるいは文全体を示すこともある。
英語ではよく it が省かれたり、あるいは so が用いられたりしている。はっきりと前の語句を受けるときは it を用いる、となっているようである。
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Sind sie krank? Ja, ich bin es. |
Are you ill? Yes, I am. |
Er shien erstaunt, aber er war es durchaus nicht. |
He seemed to be surprised, but he was not so at all. |
Ich hasse ihn, ich verhehle es nicht. |
I hate him, I don't conceal it. |
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3) 文法的主語としての es:
文頭に仮の文法的主語を立て、本来の主語を後回しにする。現在 英語では、この場合、多く there を用いた表現になる。
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Es war einmal ein König. |
There was once a king. |
Es war ein trauriger Ausdruck in seinen Blicken. |
There was a sad look in his eyes. |
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4) 後に来る zu 不定形あるいは従属文をあらかじめ示すところの主語(形式主語)とか目的語の働きとしての es:
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Es ist leicht, diese Frage zu beantworten. |
It is easy to answer the questions. |
Es war ein Glück, daß ich ihn dort traf. |
It was good luck that I met him there. |
Es ist mir lieb, wenn Sie zufrieden sind. |
I am glad if you are satisfied. |
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このような先行目的語としての es は省略されることが多い。英語では常に省略する。
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Ich ziehe es vor, zu Hause zu bleiben. |
I prefer to remain at home. |
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ただし、 find, think などは it を必要とする。なぜならば、省くと文の構成がはっきりしなくなるため、のようである。
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He thought it a duty to conceal his feeling. |
Er hielt es für seine Pflicht, sein Gefühl zu verbergen. |
I do not find it easy to advise you. |
Ich finde es nicht leicht, Ihnen zu raten. |
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5) 強意的構文の es ...+ 関係文「〜するものは〜である」:
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Es sind oft kleine Dinge, welche groァe Wirkungen haben. |
It is often little things that have great effects. |
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述語が人称代名詞のときは es を後にする。
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Sie war es, die zu ihm kam. |
It was she who came to him. |
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この場合、先行詞は es であるが、文法的には、強調される述語に従う。
ただし、この構文について言うと、ドイツ語ではじつは英語ほどは用いられない。その理由は、一般にドイツ語では語の配置が自由であり、もし強調したい語があれば、たいていそれを文頭に置くだけでよいからである。
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It is not from hatred, but from love that I punished him. |
Nicht aus Haß, sondern aus Liebe bestrafte ich ihn. |
It was yesterday that he called on me. |
Gestern besuchte er mich. |
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6) 虚字の es (Füllwort) :
この es は別に意味はなく、4格目的語の入る場所に、単なる穴埋めとして用いられている。この漠然としたものを示す虚字の es は、ドイツ語ではけっこう用いられている。英語においても見られるが、さほど多くはない。
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Er shien es eilig zu haben. |
He seemed to be in a hurry. |
Ein rechtlicher Mann hat es schwer hier. |
An upright man has a hard time here. |
cf. Kay catches it. / Take it easy. |
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