比較文法(ドイツ語と英語)




受動態は、文化が比較的進んでから発生したもので、動作の主体よりも客体に、注意と関心が向けられ、その客体を強調しようとする表現である。普通は、動作の主体が意識されない場合が多い。
ドイツ語においては、今日、口語ではあまり用いられない、ただし、書きことば、特に論文などでは、比較的多く用いられている。それに対し、英語においては、客体を強調するのに都合がよいので、受動態は大いに好まれ、頻繁に用いられている。これは語順が厳格な英語の事情によるもので、ドイツ語の場合とは異なる。

受動態の種類
ところでドイツ語においては、動作の静的関係と動的関係を明らかにしようとする傾向が強いので、受動態にも動作受動と状態受動(動作の完了形の worden の省略)の2種類がある。
geshclossen weden 動作受動の不定形
geshclossen worden sein 動作受動の完了不定形
Das Tor wird von ihm geshclossen 動作受動
The gate is shut by him.
Das Tor ist den ganzen Tag geschlossen. 状態受動
The gate is shut the whole day.


英語に、次のような動作受動態のような表現があるが、これは古い用法の名残と見られる。
He became seized with a profound melancholy.
At home the boy gets scolded all day long.
ただしこれは口語的な用法のようで、普通の書きことばとしては、英語においては、動作・状態の区別がない。このことは英語の大きな弱点だと指摘する文法学者もいる。

 態の転換について
だいたい英独共通であるが、ドイツ語では真の意味での受動態は他動詞、つまり4格支配の動詞の場合だけ可能である。それで能動文の4格目的語(直接目的語)だけが受動文の主語になる。
英語の場合は、例えば:
I was given a new hat by my uncle.
のように、間接目的語(3格)も主語になりえるが、この形はドイツ語では成立しない。
この形の受動文は、古い英語にはなかったが、13世紀頃から3格と4格の形態上の区別が消失したため発達してきた。
なお、フランス語やイタリア語も、受動文の主語となりえるのは、能動文の直接補語(直接目的語)のみである。















自動詞の受動態
自動詞の場合、完全な形での受動文は作れないが、文頭に非人称の主語 es を立てて受動文にすることが一応は可能で、これは非人称受動態とも呼ばれる。

英語ではたいていの自動詞はよく前置詞と結合し、しかもこの結合がかなり緊密なため、このまとまった形で他動詞の意味を表わしていると見なされ、それゆえに受動態を作るときはそのまま他動詞として扱われている。

Es wird auf Sie von ihm gewartet.
You are waited for by him.



Adam und Eva
Albrecht Dürer, 1507
Museo National del Prado, Madrid





英語においては、文章中に、受動態がかなり頻繁に見られるが、これは英語では S + V + O の配語法が厳格なため、目的語を強調するひとつの手段として、受動態を好んで用いる、ということであろう。
ドイツ語では、受動態は形式的で冗長な感じになってしまうせいか(枠構造とか、自動詞の場合には非人称の主語を必要とするとかの故にか?)、口語ではあまり好まれない。そしてどちらかというと、この受動態に代わる他のもう少しすっきりとした表現を求めようとする傾向が強いようだ。
つまりこれは、形の上では一応、能動文なのだが、受動に類似したほかの表現、たとえば「一般に人は」という表現とか、再帰代名詞を使うことによって、「おのずから〜する」という形で「自然に〜される」というふうな意味合いを出す、というやり方、などである。

その例をいくつか挙げれば:
1) man を主語にする。英語では、受動文でぜんぜん構わない。
Man wird die Ausstellung bald eröffnen.
The exhibition will soon be opened.

2) sich + 他動詞
Die Tür öffnete sich und schloß sich sofort wieder.
The door was opened and was closed immediately again.
英語でも古くは The door opened itself. の形があったが、この再帰代名詞 oneself が重苦しい(ドイツ語の sich フランス語の se イタリア語の si はきわめて軽く、それぞれ大いに利用されている)。そのためこの oneself が省略された形である「能動的受動 (activo-passive) 」というものまで現われてきた。
The book sells well. Das Buch verkauft sich gut.

3) sich + 他動詞 + lassen の形もおおむね受動の意味をもつ
Sie läßt sich leicht betrügen.
She is easily deceived
Dieses Wort läßt sich nicht leicht in eine fremde Sprache übersetzen.
This word is not easily translated in another language

4) 受動的な可能・当然の意味を表現する seinzu 不定形 の形
Die Ursache war nicht zu finden.
The cause could not be found.
Das Signal ist nur im Falle der Gefahr zu geben.
This signal is only to be used in case of emergency.
英語にも She is much to blame. のように beto 不定詞 の表現が古い形の名残として一部に見られるが、一般には、(上の例にもあるが)
14・5世紀から be to be + pp という(受動として)明瞭な形が用いられるようになった。
The work is to be done at once.
この現象は beto 不定詞が「〜することになっている(予定)」という能動的な意味に使われるようになったこととも関係しているのかもしれない。

5) bekommen, erhalten を用いても、少し俗語的ではあるが、受動的な感じの表現になる。これは、英語の have, get + 目的語 + pp の形に相応する。
Ich bekam das Buch zugeschickt.
I had (got) the book sent to me.
Ich habe die Uhr geschenkt bekommen.
I had (got) the watch given me.

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