比較文法(ドイツ語と英語)



複合動詞および話法の助動詞については、不定詞句の語順、定動詞の位置の問題などの点で、現代ドイツ語における用法は、現代英語に比べると、特異な性質を示している。しかし、大局的に見れば、両者における用法は、歴史的にも共有し、現代語においても、共通性が多い。




複合動詞とは単純動詞を基礎語として、それに種々の接頭辞が結合してできた動詞である。接頭辞の由来は、名詞、動詞、副詞等、種々様々であるが:
stattfinden (名詞+動詞:take place), spazierengehen (動詞+動詞:go for a stroll), wiederholen (副詞+動詞:repeat)
その中で、副詞および副詞から転じた前置詞が目立つ。
wiederholen,ausgehen, abfahren; ankommen, mitbringen, übersetzen,

種々の接頭辞という点でもう少し: 例えば halten という基礎語から、次のような複合語が生じている。
anhalten (stop), aushalten (endure), behalten (keep), enthalten (contain), erhalten (obtain), unterhalten (entertain).


 接頭辞と基礎語との結合の強弱の問題:
ドイツ語の複合動詞には、接頭辞(前綴り)と基礎動詞が融合しているもの、不完全な結合をしているもの等があり、その結合の仕方の強弱に従って、非分離動詞、分離非分離動詞、分離動詞の3種類に分けている。
そしてこれは結合の時期が「古いか新しいか」をも反映してもいる。つまり、非分離動詞がいちばん古いタイプ、従って完全に融合してしまっている。非分離動詞の接頭辞(be-,ent-, ge-, ver-, etc.)は現在ではもう独立語としては存在しない。その反対に分離動詞は新しいタイプゆえ、接頭辞と基礎動詞の間の結合はゆるい。分離非分離動詞は、ふたつの型の中間に位置し、その結合の仕方は不安定である。



英語の become, forgive, upset (ひっくり返す < 上へ+据える) などは古く(17世紀頃まで)に生じたもので、
ドイツ語の非分離動詞 bekommen (to get), entstehen, verkaufen に対応する。
が、その後廃れる。わずかに over- under- にその名残。


overwork, overtake, understand, undertake, underline も比較的古い。
ドイツ語では、分離非分離動詞 übersetzen (to ferry over; to translate), unterbrechen (to interrupt) が、だいたいこれらに対応する。



The Fighting Temeraire (Téméraire)
1839
Joseph Marllord William Turner:
National Gallerry, London

(She played a distinguishe role at the Battle of Trafalgar in1805)









しかし Mod.E. では、一般にいわゆる熟語(イディオム)の類い(「基礎動詞+副詞その他」の形での表現)が、新しく造られ、かつ著しく増加している。 ― この形を複合動詞と考えれば、ほとんど無数と言ってよい。break out, put out, go out, go away; give up, stand up, look at, come back, listen to, take place. 等々。
この型は、ドイツ語の分離動詞 abfahren, eintreten, teilnehmen に対応している。
合成された動詞のうち、このタイプは、英語におけると同様に、ドイツ語においても、重要な役割を担っている。

余談だが:to take place は、ドイツ語では stattfinden (to find place) フランス語は avoir lieu (to have place)




話法の助動詞(modal auxiliary)とは、他の動詞を助けて、話し手のもろもろの心的態度(可能とか許可、推測など)を表現するものである。もともとは他動詞であるが、次第に独立性を失う。

話法の助動詞は英独で語源を共有し、形態が類似しており、その持つ意味もかなり重なり合う。かたちは、とくに現在単数が(本来は過去の単数形、これが英語で採用されている)よく似ている。
cf.



dürfen, können, mögen, müssen, sollen, wollen
darf, kann, mag, muß, soll, will
(to dare), can, may, must, shall(should), will(to want)

話法の助動詞の基本的な用法で、かつ頻度の高い「 zu (to) を伴わない不定詞と結合する」点は、ドイツ語と英語は同じである。ただし、(前々項§07 で述べた)「不定形の語順」との絡みで、zu (to) を伴わない不定詞の位置に関しては若干の違いが生ずる。
cf.



Können Sie schwimmen?
Can you swim?
Ich muß heute zu Hause bleiben und arbeiten.
I must stay at home and work today.


 ドイツ語と英語の相違点
ドイツ語の話法の助動詞は「動詞」としてさほど特別なものではなく、ほぼ一般の他動詞と同じように扱われている。

しかしながら、英語の場合は、その使用範囲がドイツ語に比べて、遥かに狭い。つまり、英語の話法の助動詞は、不定形ではなく、「定形」そのもの、つまり「現在形」と「過去形」のみである。従って、自由度は無きに等しく、用法は限定され、種々の「言い換え」を必要とせざるを得ない:
Er wird es beenden müssen.
He will have to finish it.
過去分詞がないから、完了形にする場合に不自由になる。
I have been able to speak French.
過去形を欠くもの(must)もあり、 had to などとしなればならない。
Er mußte arbeiten.
He had to work.

ドイツ語では、ほぼ一般の動詞と同じ扱いゆえ、独立動詞としても用いられる。 zu 不定形にすること ( zu können ) も可能だし、他の助動詞と結合することもできる。

cf.






Er hat den ganzen Tag arbeiten müssen.
He has had to work all day.
Wir essen, um arbeiten zu können.
We eat to be able to work.
Sie müssen schwimmen können.
You must be able to swim.


補足: 話法の助動詞の現在形単数(ex. dürfen-darf)は、強変化動詞の過去形(ex. wefen-warf)と同じである。理由はあまり定かではないが、本来は過去形だったものが、現在形として用いられるようになった。現在形の単数と複数の幹母音が異なるのは、本来は過去の単数形と複数形であるためのようである。そして、新たに過去形が、たとえば durfte が生じた。

なお、ドイツ語の過去分詞の ge- を付ける形は新しい。ge- を付けない形(不定形と同形)は古い。
gedurft, gekonnt, gemocht, gemußt, gesollt, gewollt
dürfen, können, mögen, müssen, sollen, wollen

< 前のページ