比較文法(ドイツ語と英語)




最も古い前置詞は場所の副詞から転化したもの。 従ってもともと空間的な関係を表したが、 転じて時間的な関係を、 続いて抽象的な関係をも表すようになった。
ドイツ語の前置詞は後に来る名詞に対して一定の格を要求する。 これを前置詞の格支配と言う。

英語も古くはいろいろな格を支配したが、 その後格変化を消失したため、 ModE.ではすべて目的格支配と考えられている。 現代の英語は、格支配の点ではシンプルになったが、名詞の格変化を失ったことを補う必要から、 前置詞の役割自体は、ドイツ語におけるよりもかなり大きい。 付け加えれば、 前置詞を用いた方がより具体的かつ感覚的にもなる。


さて、格支配について:
1)二格支配の前置詞は比較的新しい。 多くは名詞から転化したものである。
ex.
jenseits des Flussesauf jener Seite des Flusses
(on the other side of the river)
なおドイツ語の二格は英語では of

 前置詞の位置






前置詞の位置 - Präposition (preposition) は文字通り支配する語の前に置かれる。 しかしもとは副詞ゆえ、 本来は支配する語の後に置かれる。 今日も、 わずかであるが、 この Postposition (ex. nach, entlang) が残っている。
 ex. die Sraße entlang, meiner Meinung nach
英語では ago だけのようであるが、 他に疑問文や関係文では、後置のような現象が生じている: What did you do it for?

2)ドイツ語は英語よりも、 静的関係と動的関係を明確に区別したがる言語で、 三四格支配の前置詞は、この特徴をよく示している。
cf.
Ich stelle die Flasche auf den Tisch.
(I put the bottle on the table)
Die Flasche steht auf dem Tisch.
(The bottle is on the table.)
英語においては、 この区別も喪失した。 in に対して into が新しく作られはしたが、 これは単に動作を強調するだけのことにすぎない。
cf.
He put his hands in (into) his pockets.

前置詞の意味を補足し強調するために、 その前後に副詞が添えられることがあるが、 英語では、後に置かれる副詞(追加詞)はドイツ語ほどには使われていない。
cf.
Er steht dicht bei ihr.
(He is standing close to her.)
von diesem Standpunkt aus
(from this point of view)
von heute an




動詞の三基本形(動詞の原形不定詞、過去の基本形、過去分詞):
英語も15世紀頃までは、 過去分詞に完了の前綴り ge- がつけられていた。 また不規則動詞の過去分詞は、 ドイツ語のように、 すべて -en で終わっていた。 cf. broken, eaten, spoken などはその名残り。
英語の caught, brought, thought 等、 過去と過去分詞が -t に終わるものは古くは不規則な弱変化動詞であり、 ドイツ語の混合変化動詞に当たる(このケースでは過去と過去分詞の語幹が同じ)。

cf. ドイツ語の動詞の三基本形の三つのパターン:
弱変化: stellen, stellte, gestellt;
強変化: brechen, brach, gebrochen;
混合変化:denken, dachte, gedacht

言語はすべて、規則的なものへ移行しようとする傾向がある。 それにも拘わらず、 今日でも強変化として残っているものは、 日常的に使用されるその頻度がきわめて高く、 習慣が優先しているためである。日本語も然り。

動詞(現在形)について
1)不定詞 danken (thank), helfen (help)
英語の動詞(原形不定詞)の語尾変化の消滅の流れ:
OE.:
bindan (to bind), hieran (to hear)
ME.:
bînde(n), hêre(n)
ModE.:
bind, hear
しかし、 make,love など -e を保存している語は多い。
英語の不定詞も、 まだ ME.ではドイツ語と同じようにすべて -en で終わっていた。
今日でもまれに -en を保持しているものがある: (happen, listen, threaten)

2)現在人称変化
ドイツ語では不定詞の -en を除いたものが動詞の語幹。 英語では語幹そのものが不定詞になってしまった。ドイツ語では人称によって動詞の語幹の後につく語尾が変化するが、この変化した動詞を、 不定詞に対して定動詞と呼んでいる(変化表は省略)。  

















人称代名詞についての2・3の補足:
(1)英語の I も昔は i と小文字で書かれたが(OE.では ic)、
小さくて不明瞭なため大文字で書くように変わったらしい。

(2) ドイツ語の親称 du は英語の thou と同語源。
語尾変化も同じ、
ex. thou abidest (abide)

なお thouME. の時代に、本来は複数形の ye [ji:] に代わった。

(3) ドイツ語では、3人称複数の sie を転用して
2人称の敬称 (Sie) に用いるようになる。





Albrecht Dürer:
Die Heiligen Jphannes und Petrus (links).
Marukus und Paulus (rechts);
München, Alte Pinakothek




























動詞の現在と過去
現在形と過去形の用法は、ごく基本的には、英語とドイツ語は共通と言える。
しかしながら、両言語それぞれの見方、捕らえ方の違いというものがあり、その使用範囲には若干のずれがある。ここでは、現在形にのみ少し注目し、過去形と完了形との絡みについては後に回す。

物語的過去(過去における動作や状態を、現在とは切り離して、述べる際にこの形を用いる。過去を述べる際の基本的な用法である。)
ex.
Sie ging ans Klavier und schlug auf eine Taste.
(She went to the piano, and struck a note.)


次に、ドイツ語の現在形の用法に焦点を当て、英語の場合と比較してみる。
結論を先に、ひとことで言えば、ドイツ語の現在形の使用範囲が英語に比べて広い、ということである:

3)進行形について: ドイツ語でも古くは sein+現在分詞 で進行形を表すこともあった:
Sie war einen Sohn tragend.
が、 この形態はドイツ語においては発達をせず、 現在形に「いま」という副詞を添えたりすることで間に合わせ、 それが今日まで及んでいる。
cf. Wir lernen [jetzt] Deutsch.

英語ではこの形態は OE.に始まり、 さらに ME.では be+on+動名詞 の形も加わり
(be on huntingbe a hunting, be hunting)
次第に広く用いられるようになる。 この用法は具体的かつ現実的でもある。
cf. I'll go no more a roving with you, fair maid.

4)継続的現在
ここにはドイツ語と英語との間に目立った差異がある:
過去に始まり現在まで継続している事柄を表すのに、 英語では現在完了を用い、 ドイツ語では副詞の類いを伴う現在形を用いる。
Ich wohne schon drei Monate hier.
(I have been living here for three months.)
これはドイツ語が「現在の部分」に重点を置いているのに対して、 英語は「開始したことの完了」に重点を置くためと見られる。
またこれは、 後で完了の項で改めて触れるが、 完了形に対する観点が、 英語とドイツ語では少し異なっていることにも起因する。

5)ドイツ語では、 未来を示す副詞 (morgen, gleich, etc) があるときは、 よく(単純な)現在形が用いられるが、英語では稀である。
英語では、一般に、未来形を用いるか、あるいは、近接未来であれば、現在進行形(未来を表わす副詞:tomorrow, soon などを伴うことが多い)を利用することになろう。この点においては、英語の方が、厳密かつ客観的と言えるのかもしれない。
In zehn Munuten bin ich wieder da.
(I'll be back again in ten munutes.)
Ich komme gleich.
(I'm comming presently.)

ちなみに、この継続的現在と近接未来に関しては、フランス語にも、ドイツ語と同じような、現在形を用いた表現が見られる。aller (to go)を用いた近未来もある: 
ex. Depuis quand êtes-vous ici? / Il arrive à trois heures. // Je vais partir dans trois heures.


6)過去の事柄をありありと描写するための歴史的現在(historical present)と呼ばれているものがあるが、これを用いるのが、 英語の場合、ドイツ語よりは遥かに少ない。その客観的な性格のためであろう。
 Plötzlich wurden die Pferde angehalten, drei Räuber überfallen den Wagen und verlangen dem Reisenden sein Geld.
 (Suddenly the horses stopped, three robbers attack the carriage and demand of the traveler his money.)

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