ブラウンシュヴァイク工科大学  
心理学研究所 発達心理学科  
カーレン・ヤーン作(T.Kamata 訳)

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 カティンカとマルシュカは、茂みにかくれました。
 そして、どうやって竜をだまそうか、このような大きな石の壁を築いているそのわけを、どうやって探り出そうかと、あれこれ考えました。
 まもなくふたりは、その強い竜をまごつかせるための、あるよい計画を考え出しました。
 ふたりは抱きあって、おたがいの無事を祈りました。なぜなら、ふたりは、今から互いに離れなけれぱならなかったからです。
 ふたりはそれぞれ別れて、静かにそして用心して、竜の洞窟の近くにある、岩のかたまりの陰にかくれました。
 それからカティンカが、勇敢に、岩のかげから現われました。
 「もしもし、おかしな竜さん!」と、カティンカが呼びかけました。「いったいあなたはそこでどんな壁を作っているのですか?」
 竜は、いなずまのようにさっと振りむくと、カティンカをぎらつく目で見つめました。
 「これはおまえにはぜんぜん関係ない」と、竜はうなるように言いました。
 「おまえの身が危険になる前に、さっさとここから消え去るがいい。」
 とつぜん、竜はカティンカの方へ向かつてゆきました。カティンカは、急いで、また岩かげに隠れました。
 ほとんどその同じ瞬間に、マルシュカが、道の反対がわにある岩のそぱに、すがたを現わしました。
 「もしもし竜さん」と、マルシュカは叫びました。
 「あなたはいったいどこへゆくつもり? 私はここですよ。
それに、そんなにすぐに怒り狂わなくてもいいでしょう。私はただ、この石の壁が、何のために必要なのかを知りたいだけです。」
 いまや竜は、ますます腹を立てました。
 竜は、ただひとりの少女が、魔法を使って、ひとつの場所から別の場所へ、さっと移ったのだ、と信じたのです。
 じっさいカティンカとマルシュカは、ふたりとも、まるでそっくりに見えました。
 竜は、この少女は自分のことをからかうつもりだな、と思いました。そしてうなりながら、マルシュカの方へ向かってゆきました。
 マルシュカは、すばやく、また自分の岩のかげに隠れました。
 カティンカがふたたび現われて、竜に呼びかけました。
 「あなたは、光の国で、何をしようとしているのですか。もういいかげんに、そのわけを言いなさい。」
 竜は、道のまん中に立ったまま、もはやどっちの方向へむかったらいいのか、わかりませんでした。
 しかしカティンカがふたたび岩かげに隠れ、そしてマルシュカがまたもや現われ出たとき、
竜は、まったくとつぜん、大きく足を踏みならして、マルシュカへ向かつて跳びかかり、そのうろこのついた大きなかぎ爪で、マルシュカをつかまえました。
 竜は、マルシュカを自分の暗い洞窟へ引きずっていって、そこに閉じ込めてしまいました。
 マルシュカはとても不安になり、大きな声で叫んで、助けを求めました。
 カティンカには、マルシュカが必死に叫んでいるのが間こえましたが、
しかし、その怒り猛っている竜にたいして、カティンカひとりでは、どうすることもできませんでした。
 いったい、今やカティンカは、どうすれぱいいのでしよう。
 この遠く離れた、さびしい森の中では、だれも助けに来ることはできません。
 イングラバンは、宮殿にいて、ふたりを待っています。それにイングラバンは、なんらかのことをするには、あまりにも小さすぎました。
 竜はまたもや、石の壁のところに来ていて、こんどは前よりももっと急いで、仕事をしたので、大きな石のかけらが、あたりに、まるで飛んでいるように見えました。
 声を立てずに、ひっそり泣きながら、カティンカは、ある大きな古い木のかげに、腰をおろしました。
 急に突風が吹いて、その木の太い枝を動かしました。
 一条の日の光が、木の葉のあいだから、まっすぐにカティンカの足もとに落ち、きらきらと光りました。
 カティンカが見上げると、木の上にあった鳥の巣から、小さな羽根が一枚、ひらひら落ちてくるのが、自にとまりました。
 幸運にもカティンカは、あの光の鳥のことばを思い出しました。
 ありったけのカをこめて、カティンカはその烏のことを思い浮かべました。
 「私はあなたの助けが必要です、愛する烏さん。私のきょうだいが竜につかまって洞窟に閉じ込められています。どうか私を助けてください!」
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