ブラウンシュヴァイク工科大学  
心理学研究所 発達心理学科  
カーレン・ヤーン作(T.Kamata 訳)

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 初めのうちは、何も起こりませんでした。
 それで、カティンカの目に、またもや涙が浮かんできました。
 だがそのとき、あの山みちの入口に、小さな光が現われました。それはすごい遠さで、近づいてきました。そしてだんだん明るく揮いてきました。
 カティンカは、自分の方へ向かって飛んでくるのは、あの光の鳥の一枚の羽根だということがわかりました。
 その羽根は、ちょっとのあいだ、カティンカの目の前で、空中に浮かんでいましたが、それから、森の中へと動いてゆきました。
 カティンカは羽根のあとを追いました。
 ついに羽根は、ある小さな茂みの前で止まりました。
 その羽根の光で、茂みのかげにある、小さな入口が見えました。
 それは、地下のトンネルヘ道じていました。羽根は、ひらひらと、中へ入ってゆきました。
 しばらく行くと、そのせまくてきたないトンネルが、だんだん広くなってきました。
 そしてその羽根とカティンカは、ある大きな洞窟に出ました。
 その洞窟のかべが、羽根の光で、きらきら揮いていました。まるで、かべに宝石がちりぱめてあるようでした。
 すみの方に、木の枝と、やわらかいこけで作った、大きなねぐらがありました。これは一種のベットにちがいありません。
 その脇には、たくさんのクルミや、木の実や、うす緑の木の葉が、すべてきちんと、積み重ねて置いてありました。
 洞窟の向こうの端に、カティンカは、外へ通じる出口を発見することができました。
 その出口のところから、せわしげに行ったり来たりしている音、岩石を打ち砕く音が、間こえました。
 いまカティンカは、どこに羽根が連れてきてくれたのかが、わかりました。
 「ああ、私は竜の洞窟にいるのだわ。竜はあそこの外で、私のすぐ近くで、仕事をしている。
 さあ、私はうんと急いで、この洞窟に閉じ込められている、私のきょうだいのマルシュカを見つけなければならない。
 竜が私たちを発見しないように、すべてのことを、素早くやらなければならない。羽根さん、私をここへ導いてくれてどうもありがとう。」
 カティンカは、洞窟の中で、あたりを見回しました。
 すると、木でできた小さなドアが、目につきました。それは、ある岩の出っ張りに、ほとんど隠れていました。
 「もしや、あのドアの向こうに、マルシュカがいるのかしら?」
 カティンカは、急いでそこへ行って、低い声で、きょうだいの名を呼びました。
 「マルシュカ! あなたはそこにいるの?」
 「そうよ、カティンカ。竜が私を開し込めたの。あなたの声が間こえて、とてもうれしい。どうか私を助けて! 私を自由にできる?」
 カティンカは、ドアを聞けようとしましたが、しかしドアは、太いかんぬきで、しっかりと閉じられていました。
 カティンカは、きようだいを助けるのに、いったい何をすることができたでしょう。
 すると、羽根がひらひら近づいてきて、そのかんぬきに軽くそっとふれました。
 そのとたん、ドアはぱっと開きました。ふたりのきようだいは、抱き合ってよろこびました。
 「はやく、はやく、私たちはここがら逃げなければならない。竜に見つかって、ふたりとも開し込められたりしないように。」
 羽根の光をたよりに、ふたりの少女は、カティンカが、この洞窟に出るのに通ってきた、トンネルの方へ向かつて、走りました。
 とつぜん、ずしんずしんと、竜の重い足音が聞こえました。
 「そこにいるのは誰だ?」と、竜が、うなるような声で、言いました。
 「止まれ、無断で入ってきたよそ者たち!」
 驚きのあまり、カティンカとマルシュカは転んでしまいました。
 そして竜が、ふたりの前に立ちふさがりました。
 「私たちに、どうか何もしないでください。」と、きょうだいは、ひたすらお願いしました。
 「私たちはカティンカとマルシュカです。私たちはただ、小さな家来イングラバンとその王さまを助けたいのです。
それで、あなたがこの光の国で何をするつもりなのかを知りたいだけなのです。」

(原作未完)

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