二日後、神山が再度出頭し

「只今婚礼衣裳を返して参りました、よろしくお願い申し上げます」

 と言って帰った。

 山本は、被害者方に電話しその事実を確かめ、出頭を求めた。間もなく呉服店の女主人が出頭し

「お陰様で先ほど伯父さんと言う人が衣裳を返しに来て行きました、本当に有り難うございます」

 と礼を言う。

「品が返ってよかったですね。そこで相手の処分ですが、ほんの出来心からの犯行と考えますし、まだ若い結婚前の娘さんのことで、貴方も娘さんをお持ちなので相手の親の気持ちもわかると思いますが、検察官としては起訴はしないでおこうと考えています。如何でしょう、納得していただけますでしょうか」

「同じような娘を持つ親として、出来るだけ穏便にお願いしたいと思います」

「そうですか、貴方の意向も汲んで、処理することにします」

 女主人は一礼して帰って行った。

 佐藤克子に対する詐欺事件は不起訴(起訴猶予)処分とした。

 不起訴裁定書の末尾に「自白はないが以上の理由により証拠は十分である。結婚を目前に控えた被疑者に自白を求めるのは、死を強いるに等しい」と記載した。

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