'04年・フランス漫歩の巻
11.モンペリエからトゥルーズ
モンペリエ発 9:11 のコライユは、

マルセイユが始発駅で、トゥルーズ経由、ボルドー行きだった。

電気機関車が、今回の旅行では初めての、コンパートメント付きの車輛を引っ張っている。

車室が何となく広い、と思ったら、4人掛け、8人定員の車室になっていた。

車室の相客は、向いの窓際に、20代の真っ黒に日焼けした娘さん。

ずっと眠りこけている。

もうひとり、やはりかなり日焼けした青年。

こちらも、ウォークマン(フランスだからバラデーアか?)を耳に、

あごを胸に埋めて眠っている。

おかげで車室内は音ひとしない。

ter に2回、corail にはきょう初めて、いずれも、予約なしに乗ったのだが、

これらは、座席にわりと余裕があるようで、席を探す苦労はなかった。

このコライユは、時刻表に、トゥルーズ・マタビオ発が1116分、とある。

いま11時すぎだから、到着にはまだ間がある、と思っていたが、

列車は大きな駅に入ってゆく気配なので、気になって、外を見ていた。

駅名が見えた。

トゥルーズ・マタビオだった。

ここには長く停車するのだろう。
〜〜〜〜
トゥルーズ駅に降り立つと、駅前を、運河が横切っていた。

予定のホテルは、橋を渡り、二つ目の角を右に折れ、

次の十字路の角に建っている、はずであった。

ところが、角に立ち、あたりを見渡すも、それらしきものは、全然ない。

そのときちょうど、脇の建物の階段を、ビニ−ル袋を手に、おばさんが降りてきた。

「失礼ですが、奥さん、この辺のことに通じていますか。」

笑顔で、「ええ、わかっています。」

「私は○○ホテルにゆきたいのですが。」

少し間を置いてから、わかったという顔で、

通りのかなた(南西)を指差して、

「向うの右手の Hôtel という看板が見えるところです。」

見るとかなた右手に赤い看板が見える。

「ルージュのですか。」

「そうです。」
〜〜〜〜
ホテルのフロントで名乗ると、受け付けの男が、

「ムッシュー・カマタ、明日からの予約ではありませんか。」

などとぬかす。

「いや、明日からではない、今日からです。」

と言いながら、その男の手もとで開いているノートを覗いてみた。

15日(明日)のところに、小生の名前がメモしてある。

男は、こんどはコンピュータで調べ始めた。

「私は、14日と15日の予約のコンファームを、e-mail で受け取っている。」

と持参のコピィを見せようとすると、

「わかっています、ぜんぜん問題はありません」

と言いながら、まだ画面とにらめっこして、マウスを動かしている。

しばしのあいだ待っていた。

やっと

「いまはまだ部屋の用意ができていない。2時間ほど後に、来てくれませんか。」

と言う。

しかたがない。荷物を預けて、散策に出た。
〜〜〜〜
サン・セルナン聖堂の回りでは、衣料品のマルシェが開かれていた。

その脇を過ぎたあたりで、薄汚れた15、6の少年が、

ペンを貸してくれないか、と声をかけてくる。

ボールペンぐらいでむげに断ることもないと思い、貸してやった。

すると、もひとりのヒッチハイクの青年にそれを渡し、

青年は、紙切れに電話番号らしきものを書き、それをさきほどの少年に返し、

少年はそのペンをこちらに返してよこした。

少しゆくと、さっきの少年が、自転車で、

「メルシィ・ムッシュー」とこちらに声をかけながら、右手の家へ入って行った。

少し杞憂だった。
〜〜〜〜
ヴァラード通り沿いの社会科学大学、サン・ピエール教会、と歩いて、

橋の手前で、ほぼ引き返すようなかたちで、ロミギエール通りを、市庁舎前の広場まで来る。

その界隈で、お決まりのボルドーワイン、ビール、パン、りんご他の食料を調達して、

2時ごろ、宿に戻った。
〜〜〜〜
こちらの顔を見ると、さきほどのフロントの男は、滔々と釈明を始めた。

そんな、ことこまかに長々と、しかも早口で、説明をされても、

こちとらの生かじりのフランス語の能力を、はるかに超えている。

が、おぼろげながら、

要するに、メールでこちらが予約をした続き部屋 (suite) は、手違いで塞がってしまった、

それで別な部屋を用意したので、見てくれないか、ということだ、

と理解した。

相手の演説が終わるのを待ち、

「了解した、見せてもらいます。」

荷物はそのままにして男のあとに付いてゆく。

廊下が、カボチャやキュウリの蔓の枝別れのように、ジグザグになっている。

そのジグザグを、道なりに突き当たりまでゆき、そこの部屋を開けた。

まあ手ごろな広さの部屋で、そこにダブルベットとシングルベットが備えてある。

「ここが気に入らなければ、互いに離れてはいますが、別個の2部屋を用意することができます。

もしここでよろしければ、65 € にします(約束は 90 € )

部屋は比較的せまいが、我々にすれば、これでじゅうぶん。

「ここで結構です。」

フロントに戻り、荷物を受け取り、カギをもらう。

男が、いそいそと荷物運び用の台車を持ってきたので、

「それは必要ありません」
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