'03年・イタリア徘徊の巻
15-1.ナーポリのフニコラーレ、その他(1)
ここのホテルのビュッフェは7時から開いていた。
朝食は完全に、コーヒィも、セルフサーヴィスだった。
自分で勝手にカッフェラッテなどにするわけだが、味は悪くない。
ときには、天然のジュースではない、気の抜けた味のジュースを出すホテルもあった。
幸い、ここのは、アランチャのジュースもおいしかった。
パンの種類は、コルネッティ(クロワッサン)のみだった。
それでもいいのだが、カスタード入りなので、甘い。
朝に、甘いパンでは、すなおに受け入れがたい。
いささか行儀が悪いが、中身は取り除けた。
珍しく、少し塩気のあるプロシュット・コット(調理ハム)が付いていた。
〜〜〜〜
朝食を早めに取れたので、8時には外出した。
ガルバルディ広場の真ん中より少し駅寄りのところに、切符売場らしきプレハブ様の建物が見えた。
そこの窓口で、 Biglietti Giranapoli(ナーポリ周遊券、というところか)を買えるかどうかを

聞くと、買えるという。
切符を買ってから、使い方を聞くと、
「地下鉄、ケーブルカー、バスなどに、一回、検札器に入れる」
と言う。
「1日のあいだ、何回でも、乗り降りができる、と思うのだが?」
「そうだ。」
なんだか、少しわからないところがあるが、ともかく、かまわず使ってみることにする。
Mのマークが見えたので、その階段を降り、改札で聞くと、そこの検札器に入れろ、と言う。
が、入れても、ぜんぜん反応しない。
ひょいと隣の人のを見たら、切符を裏返しにして、入れている。
こちらも真似をし、同じようにして、入れたら、反応し、印字された。
リーネア2の4番線のホームを降りてゆきつつ脇を見ると、ホームが、他に何本も見える。
念のために、また戻って、駅員に確かめた。
「ビナーリオ4、モンテサント駅は二つ目」
と教えてくれた。
乗客はまばらだった。
車体および車内は、(ナーポリにしては?)こぎれいだった。
モンテサント駅で降りると、降り口には係の人がいなかったので、ぐるっと回り、

乗り口のところで、ケーブルカー(フニコラーレ)の乗り場を聞く。
地下鉄駅の前のちっぽけな広場の左手の細い道を指差して、
「そこを真直ぐに行って、右」
フニコラーレ・モンテサントの駅で、次のケーブルカーの発車時間を聞く。
「8時15分前」
あと、10分ほどある。
教えられて、こんどはチケットを表にして改札口の器械に入れる。
目の前の大きなガラス戸は閉まっている。
「少し待ってくれ。時間になったら開ける。」
〜〜〜〜
途中に、二つほど駅があった。
ナポリのフニコラーレは、とくに観光のためのものではなく、
市電のような感覚で、日常的に利用する交通機関と見た。
駅前で、この駅に関係する人たちだろうか、三人が語らっている。
声をかけて、僧院への道を聞く。
すると右手の、人は通れるが、車は入れないように、ウマを設けてあるのところを指して、
「そこを入って、まっすぐに行って、右に曲がれ」というようなことを言う。
そこを入ると、その先は、たしかに道になっている。掃除のオジサンに声をかけると、
「サン・マルティーノは、奥まで行ってから右」と教えてくれた。
辺りの様子は、下の町とは大違いで、落ち着いた山の手の(高級)住宅街、という雰囲気である。
歩いてゆくと、通りの左側の、建物群の隙間を通して、下方にナポリの(下)町が

広がっているのが垣間見える。
まもなく右手に大きな城(Castel Sant'Elmo)が現れた。
城の上部の切り口に人影が見える。
見晴しがよさそうなので、入ってみることにした。
チケット売場には、客は、他には中年の夫婦のみ。
少しあとに、若い女がひとり入ってきた。
中年夫婦の夫の方が、こちらを見て、
50ユーロを小銭にかえてもらえまいか?」
「残念ながら、細かくできない。」
こちらは、ひとり3ユーロなので、3人分として、売り場のおネエちゃんに

10ユーロ紙幣を出すと、
1ユーロ分の釣りを、小銭を掻き集めて、よこした。
そして、中年夫婦には、
「ちょっと待ってください。用意してきます。」
〜〜〜〜
ラシェンソーレで上へ上がると、眺めはまことに広々として、素晴らしかった。
東にはヴェズーヴィオが、朝靄のなかのナーポリの町のかなたに、雄大に浮かび上がっている。
南東に広がるナーポリの港の景色も、じつに趣きがある。
サンタ・ルチーアからメルジェリーナにかけての海岸線も悪くない。
要するに、高台から海を眺めるのは、気持ちのよいものである。
しばし、あちこちを見渡して、ときを過ごした。
これで、満ち足りたので、チェルトーザ(修道院)・サン・マルティーノに入るのは省略。
〜〜〜〜
さきほどの駅へ戻る途中、すれ違った背の高い中年の男に
「日本ノ、ドコカラ来マシタカ?」
と、声をかけられる。
「私はカメオのファクトリィを持っている。キョウトのダイマルでも展示しました。
ナーポリは、下の街とこの辺りとでは、ぜんぜん環境が違う。下はディンジャラスだ。
私のファクトリィに寄ってゆかないか?」
「他に、見るところがあるから」と断り、別れる。
〜〜〜〜
駅では、オジさん方三人、まだ話が弾んでいた。
ここから程近いところにあるはずの、もうひとつのケーブルカー、

「フニコラーレ・チェントラーレ」の駅の場所を聞く。
「この道をまっすぐに行くと、石段が2箇所ある。それを降りると、

ヴァンヴィテリ広場に出る。その広場を左に行けばよい。」
広場に出るひとつ前の交差点の角の歩道上で、オバさん二人が話し込んでいる。
手元の地図の上では、少し近道できそうに思えたので、
「邪魔をして申し訳ない。」
「オー・ニエンテ!」
やはり、ここで左に曲がってゆくと、駅へ出るとのことだった。
フニコラーレ・チェントラーレで、下に降りる。
電車は、3両編成で、ケーブルにぶら下がっているタイプではない(はずだ)が、
途中の駅で停車すると、停車している間中、ゆるやかに前後に揺れていた。
〜〜〜〜


中央上部に見える線(F)が Funicolare di Montesanto
左の中ほどから右下へ斜めに走っている線(F)が、Funicolare Centorare
左上隅(水色)が、山の手の住宅街。 右上(黄色)は、ナーポリの下町(旧市内)の左端。
右下隅(緑色)に、Teatro S.CarloCastel Nuovo
from: Estate a Napoli 2003
〜〜〜〜
下の駅を出ると、右手の角に惣菜やがあった。
入ると、店員(男)が、「何を望みか」と聞いてきた。
店員を待たせて、品定めに、少し手間取ってから、三種類の品を選び、あげくに、

僅かの量づつ注文し始めたら、
その店員の反応が、煩わしくなったのだろうか、鈍くなった。
そして、他の客に目を移し、そちらの応対をし始めた。
こちらの注文を(一応は)受けているはずなのに、少し待っても、品物をよこす気配がない。
こういう店も、ときにはある。
買うのは止めにして、店を出る。
〜〜〜〜
ヌオーヴォ城とサン・カルロ劇場との間に、車を進入禁止にした広い道があり、
そこを行くと、何かコンクリート製の大きなゲートのようなものの、ちょうどいい具合に、

日陰になった場所に、座り心地のよさそうなベンチが置いてあった。
そこで休んでいると、気持ちのよい浜風が通る。
左手に水桶、右手にバケツ(どちらにも水が入っている)を持ったオジイサンが来た。
かなり重そうだ。
我々の前で、水桶とバケツを置いて、一息つく。
水桶に手を突っ込むと、タイのような魚を取り出して、見せてくれた。
あとで市場で同じ種類の魚を見た。「オラータ(クロダイか?)」とあった。
魚は、掴まれたまま、尻尾を跳ねさせている。
家へ帰ったら、料理して食べる、というようなことを言って、
炎天下、ふたたび両手にぶら下げて、ゆっくりゆっくり歩いていった。
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