'04年・フランス漫歩の巻
08.マルセイユ
朝の5時、まだ外は真っ暗だが、

この時間に、大型のゴミ収集車が街を回っている。

他の都市も繁華街はそんな風だった。

そして撒水車が通ってゆく。

そのあと、窓から眺めると、車道にきれいに水打ちがしてあった。
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8時前に外出する。

バジリク・ノートゥル=ダム・デゥ・ラ・ガルドゥを目指したいのだが、

いかんせん、詳しい道路地図が手元にないので、道順がよくわからない。

まずローム(ローマ)通り(Rue de Rome) を南下した。

県庁のところあたりで曲がれば、だいたいその方角に向かうだろう、と算段した。

ところが、(よく、しでかすのだが)何を勘違いしたのか、東へ向かおうとしていた。

ちょっと気になって、通りがかりのオバサンに聞いたら、県庁の脇を西へ行けとのこと。

さらに、途中で3、4度、道を聞いた。

2度目にプレフェクテュール(県庁)を過ぎたあたりで、中年過ぎのオジサン二人連れに聞いたが、

このときの説明はとてもわかりやすかった。

この県庁脇の道を右寄りに西進して、

コルデリ広場に出たら、そこを左へ曲がればよい、というもの。

広場の手前で、中年のオバサンにもう一度聞く。

そこを左へ曲がり、あとは「延々と」登って行きますよ、という表現だった。

じっさい、けっこう急な坂の、直線の歩道が、山手へ向かって続く。

両脇には、建物が立ち並び、車道の端には、斜め駐車のクルマの列。

大いに汗をかいた。

寺院は思ったよりも大きい。

見晴しはとてもよかった。
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この山の上から見当をつけ、サン・ヴィクトール寺院を目指して、降りる。

その手前で店を見つけ、タルトとピッツァを買う。

寺院の周りは、二人組の警官がふた組、通りの手前と奥とで、警戒している。

喪服姿のひとが、寺院の入口のところで、記帳をして、中へ入ってゆく。

これから葬儀が始まる気配なので、入るのは遠慮する。

先へ進み、ニコラ要塞への入口の坂を上がってみる。

が、鉄の門は閉ざされていた。

現在は、修復のための工事をしているようだ。

ファロ公園まで歩く。

まだ、時間は10時半だが、お昼にする。

ここからは旧港に出入りする船がよく見える。

この先は外洋になるので、

港から来た船は、ここでエンジンを全開にし、ヨットは、帆を張る。

トマト味のピッツァがとてもおいしい。

イタリアに近いせいだろうか? 

十分に休み、体力を回復してから、埠頭を目指す。

埠頭まではすぐ、と見えたのが、けっこうな距離だった。
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シャトー・ディフ往復の切符を買い、

待合室で少し待ち、乗船する。

かなり気温が上がってきた。

日差しも強い。甲板にいると頭が熱い。

12時ちょうどに出航する。

船が動き出すと、風が気持ちよい。

旧港の湾内ではゆっくりだったが、

沖へ出るとスピードを上げ、イフ島がみるみる近付いてくる。

エドモン・ダンテスがこの島の牢獄に、無実の罪で14年間、幽閉された、

というのはアレクサンドル・デュマの創作だが、

岩波文庫で7册の『モンテ=クリスト伯(Le comte de Monte-Cristo)』は、

かつて、小生のいちばんの愛読書だった。

まだ若い時分に(もう勤めてはいたが)、スキーで靱帯をひどく痛めた。

ほとんど歩けない状態だったので、

定食屋に食事をしにゆくのに、片足で、苦労しいしい自転車をこいだ。

それ以外は、三畳間の下宿で、一週間、横になっていた。

そんなことがあったが、その間は、この本のおかげでぜんぜん退屈しなかった。
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フランス語のパンフレットをもらい、歩きながら開いてみると、

アルブレヒト・デューラーの「犀」が載っている。
どういういわれがあるのか、

小生の乏しいフランス語の知識ではわからない。


見学した帰りに、ドイツ語のパンフレットももらい、

読んでみた。

すると、要するに、
1513年にインドの王からサイを贈られたポルトガルの王は、

これをさらに教皇に献上しようとした。

それで、リスボンからローマへ運ばれることになり、

その途上、マルセイユのイフ島に立ち寄った。

サイはこの当時のヨーロッパではまったく未知の獣で、大いに人々の関心を惹いたこと、

Valentin Ferdinand という人の、そのスケッチをもとに、

デューラーが木版画に仕上げた、」

ということだった。

「なお、このサイは数週間イフ島に留まったのち、ローマへ向けて帆走したが、

ジェノヴァ湾でひどい暴風に会い、岩礁にぶつかり、

船は粉砕し、この獣の死体が海岸に打ち上げられた。

それで、教皇が見たのはサイの剥製だった、」という話。

13時半の船で旧港に戻る。もう暑くて暑くて、また限界だ。
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ホテル脇の店では、オバサンが、この暑さでへばっていた。

片言で、お天気のことなど、ふたこと三ことおしゃべりをし、

写真を撮らしてもらう。

ホテルのお湯が出ない。ぬるい水のまま。
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