'03年・イタリア徘徊の巻
5.ローマからボローニャへ
今日も快晴、そして相変わらずの猛暑。
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「このホテルでの滞在はとても気に入った。」 
フロントの若い男は、相好を崩し、大きな声で
「グラーツィエ」
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8:47発のインテルシティ(IC 588)の発車番線は、発車の10分ほど前に、8と表示された。
スコンパルティメントになっていた。
イタリアのICは概して、コンパートメント方式の列車のようである。
予約していた席(通路側)には他人が乗っていたので、ことわって空けてもらう。
6人掛けの車室内の、他の3つの座席には、小学1年ぐらいの男の子を連れた、肥えた

若い夫婦が掛けていた。
夫婦は窓側の席に、向かい合って座っていた。
車室の入口の脇に差し込んである予約札によれば、

フォルミア(ナーポリとローマの間の駅)からモーデナまでの予約客だった。
奥さんは、テーブルクロスだろうか、レース編みに余念がない。
子供はずっと寝っぱなし。
まもなく、オヤジさんも寝てしまった。
けさは早起きしたのだろうか。
おととし、旧東ドイツの地域を走ったときと同じように、
インテルシティというのに、トイレはタレナガシだった。
列車内はけっこうな込み具合で、立っているひともかなりいる。
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車室のドアの前、通路脇の補助椅子に、若い女が座る。
ほどなく、手持ちの籠からインコを取り出し、自分の身体を這わせる。
車掌が検札に来た。
ちょっと気が付かないでいたが、家内の言では、女は、その直前に、どこかに消えた、という。
しばしの後、籠の他に、大きめの手荷物を持って、また現れ、
「手荷物を車室の棚に置かせてくれないか」と言う。
窓側の、肥えて大柄な夫が、立ち上がり、無言で、その荷物を棚に乗せてやる。
女は、再び、籠を脇に置いて、通路の補助椅子に座る。
隣の席(真ん中)の子供が目を覚ました。
少し間をおいたら、「歳はいくつか? 今日はオバアチャンのところへ行くのか?」

などと聞いてみようか、と思った途端、
子供がカゴの鳥に気付いた。
目は吸い付けられたまま、指をさして、せわしく親に教えようとする。
すっかり目が覚めたようだ。
それをきっかけに、
『鳥刺しのパパゲーナ』(と、もじって、勝手に名付けた)は、滔々と話し始めた。
こちらは、子供に話し掛けるのを断念し、お昼にする。
パパゲーナは、かなり大きな声で、通路に立ったまま、

こちらの頭越しに、若夫婦と子供を相手に講釈をしている。
その後1時間、こちらの食事が終わっても、まだ依然として、喋り続けていた。
「鳥の飼い方、扱い方、食べさせる果物の種類と量、どこの店で買えるのか、店の住所は」

といったことを延々と話している。
奥さんが、時折メモを取っている。
ボローニャ駅に入り、列車が速度を落としたので、こちらは立ち上がり、
「我々は降りるから、どうぞ」とパパゲーナに声を掛けたが、
もう話に夢中で、返事もせずに腰を下ろし、若夫婦相手にしゃべり続ける。
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ボローニャ駅の改札を出ると、窓口が見えたので、あさっての予約をしておこうと思い、

聞いてみた。
「そこの1番ホームの先、右手の窓口へ行け」
行くと、「プレノタツィオーネ」の看板が見えたので、ドアを押して入る。
窓口には、誰も並んでいない。これなら待たずに済みそうだ。
「あさって、火曜日、8月12日の予約をしたい。

ボローニャからミラーノまで。

ボローニャ発9:07のエウロスター(係員はだれも、ES*を、イーエススターとは言わない、

単にエウロスター)、2等車、3人」
30代とおぼしき、窓口の女性は、すぐ了解し、キーを打ち、
ひとり30エウーロ弱の金額を言う。
「おかしい、少し高いな」と思いつつ、一旦は100ユーロを出したものの、

そこで、はたと気が付いた。
レイルパスを見せることを失念していた。
繰り返し詫びを言って、パスを提出した。
「忘れていた、たいへん申し訳ない」
相手はやれやれという顔をしながらも、発券をやり直してくれた。
3人で24ユーロの追加だから、さきほどの金額よりはだいぶ安い。
それにしても、イタリアの国鉄は、全線有効のレイルパスを出しておきながら、

何かと追加料金を徴集する。
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きょうの宿は、距離はけっこうあったが、ずっと直線で、
町の広場の、手前何本かの小路を左折してすぐなので、簡単に見つかった。
受け付けには、上品なオバアサンがいた。
パッサポルトの提示を求められ、娘も取り出して渡そうとすると、ニコニコ顔で、
bimba のはいらない」
「(こういう娘を)bimba と言うのですか」
「そう bimba
見当はついたが、あとで調べたら、やはり、bimba = bambina だった。いやはや。
オバアサンが先に立って、部屋まで案内してくれる。
3階の suite(続き部屋)だった。
通って来た廊下が、幅が3メートル近くで、広々としていたが、
部屋自体もまた、かなり広い。
バスルームを挟んで、左側にシングル、右側にツインのベットが置いてある。
他に、机や椅子も二つ三つ置いてあるが、部屋に余裕があるので、ぜんぜん邪魔にならない。
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すぐに町へ繰り出し、まず、例によって、

ポルタ・ラベニャーナ広場の二つの塔(Torri Garisenda e Asinelli)のうちの登頂の可能な、

97メートルのアジネリの塔に上ってみた。
またもや大汗をかいたが、やはり眺めは抜群だった。


The city map above: from "Baedekers Reiseführer, Italien." Karl Baedeker Verlag, 1989, p.165
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今日の食料は、リゾットを中に詰め、アランチャの形にした一種の揚げパンをひとつ、

トマトとズッキーニを載っけた、普通の生地とパン生地のピッツァを一枚づつ。
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