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5.ローマからボローニャへ
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今日も快晴、そして相変わらずの猛暑。
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「このホテルでの滞在はとても気に入った。」
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フロントの若い男は、相好を崩し、大きな声で
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「グラーツィエ」
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8:47発のインテルシティ(IC 588)の発車番線は、発車の10分ほど前に、8と表示された。
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スコンパルティメントになっていた。
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イタリアのICは概して、コンパートメント方式の列車のようである。
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予約していた席(通路側)には他人が乗っていたので、ことわって空けてもらう。 |
6人掛けの車室内の、他の3つの座席には、小学1年ぐらいの男の子を連れた、肥えた
若い夫婦が掛けていた。
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夫婦は窓側の席に、向かい合って座っていた。
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車室の入口の脇に差し込んである予約札によれば、
フォルミア(ナーポリとローマの間の駅)からモーデナまでの予約客だった。
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奥さんは、テーブルクロスだろうか、レース編みに余念がない。
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子供はずっと寝っぱなし。
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まもなく、オヤジさんも寝てしまった。
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けさは早起きしたのだろうか。
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おととし、旧東ドイツの地域を走ったときと同じように、
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インテルシティというのに、トイレはタレナガシだった。
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列車内はけっこうな込み具合で、立っているひともかなりいる。
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車室のドアの前、通路脇の補助椅子に、若い女が座る。
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ほどなく、手持ちの籠からインコを取り出し、自分の身体を這わせる。
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車掌が検札に来た。
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ちょっと気が付かないでいたが、家内の言では、女は、その直前に、どこかに消えた、という。
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しばしの後、籠の他に、大きめの手荷物を持って、また現れ、
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「手荷物を車室の棚に置かせてくれないか」と言う。
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窓側の、肥えて大柄な夫が、立ち上がり、無言で、その荷物を棚に乗せてやる。
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女は、再び、籠を脇に置いて、通路の補助椅子に座る。
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隣の席(真ん中)の子供が目を覚ました。
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少し間をおいたら、「歳はいくつか? 今日はオバアチャンのところへ行くのか?」
などと聞いてみようか、と思った途端、
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子供がカゴの鳥に気付いた。
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目は吸い付けられたまま、指をさして、せわしく親に教えようとする。
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すっかり目が覚めたようだ。
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それをきっかけに、
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『鳥刺しのパパゲーナ』(と、もじって、勝手に名付けた)は、滔々と話し始めた。
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こちらは、子供に話し掛けるのを断念し、お昼にする。
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パパゲーナは、かなり大きな声で、通路に立ったまま、
こちらの頭越しに、若夫婦と子供を相手に講釈をしている。
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その後1時間、こちらの食事が終わっても、まだ依然として、喋り続けていた。
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「鳥の飼い方、扱い方、食べさせる果物の種類と量、どこの店で買えるのか、店の住所は」
といったことを延々と話している。
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奥さんが、時折メモを取っている。
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ボローニャ駅に入り、列車が速度を落としたので、こちらは立ち上がり、
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「我々は降りるから、どうぞ」とパパゲーナに声を掛けたが、
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もう話に夢中で、返事もせずに腰を下ろし、若夫婦相手にしゃべり続ける。
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ボローニャ駅の改札を出ると、窓口が見えたので、あさっての予約をしておこうと思い、
聞いてみた。
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「そこの1番ホームの先、右手の窓口へ行け」
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行くと、「プレノタツィオーネ」の看板が見えたので、ドアを押して入る。
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窓口には、誰も並んでいない。これなら待たずに済みそうだ。
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「あさって、火曜日、8月12日の予約をしたい。
ボローニャからミラーノまで。
ボローニャ発9:07のエウロスター(係員はだれも、ES*を、イーエススターとは言わない、
単にエウロスター)、2等車、3人」
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30代とおぼしき、窓口の女性は、すぐ了解し、キーを打ち、
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ひとり30エウーロ弱の金額を言う。
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「おかしい、少し高いな」と思いつつ、一旦は100ユーロを出したものの、
そこで、はたと気が付いた。
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レイルパスを見せることを失念していた。
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繰り返し詫びを言って、パスを提出した。
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「忘れていた、たいへん申し訳ない」
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相手はやれやれという顔をしながらも、発券をやり直してくれた。
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3人で24ユーロの追加だから、さきほどの金額よりはだいぶ安い。
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それにしても、イタリアの国鉄は、全線有効のレイルパスを出しておきながら、
何かと追加料金を徴集する。
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きょうの宿は、距離はけっこうあったが、ずっと直線で、
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町の広場の、手前何本かの小路を左折してすぐなので、簡単に見つかった。
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受け付けには、上品なオバアサンがいた。
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パッサポルトの提示を求められ、娘も取り出して渡そうとすると、ニコニコ顔で、
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「bimba のはいらない」
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「(こういう娘を)bimba と言うのですか」
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「そう bimba」
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見当はついたが、あとで調べたら、やはり、bimba = bambina だった。いやはや。
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オバアサンが先に立って、部屋まで案内してくれる。
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3階の suite(続き部屋)だった。
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通って来た廊下が、幅が3メートル近くで、広々としていたが、
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部屋自体もまた、かなり広い。
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バスルームを挟んで、左側にシングル、右側にツインのベットが置いてある。
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他に、机や椅子も二つ三つ置いてあるが、部屋に余裕があるので、ぜんぜん邪魔にならない。
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すぐに町へ繰り出し、まず、例によって、
ポルタ・ラベニャーナ広場の二つの塔(Torri Garisenda e Asinelli)のうちの登頂の可能な、
97メートルのアジネルリの塔に上ってみた。
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またもや大汗をかいたが、やはり眺めは抜群だった。
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The city map above: from "Baedekers Reiseführer, Italien." Karl Baedeker Verlag, 1989, p.165
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今日の食料は、リゾットを中に詰め、アランチャの形にした一種の揚げパンをひとつ、
トマトとズッキーニを載っけた、普通の生地とパン生地のピッツァを一枚づつ。 |
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