'02年・イギリス瞥見の巻
16-1.地下鉄を乗り捲り、そしてヒースロウへ(1)
 地下鉄バンク駅で路上に出ると、そこは6差路のようになっているところだった。
 うっかり歩くと、目的とは違った方向に逸れてしまうと思い、通りかかった通勤の女性に
 「レドゥノール通り (Leadenhall St.) はどれか」と聞いた。
 すると、聞き返してから
「ああ、レドゥンホール・ストリートですか。えーと、それは、おそらくこの通りだと思う」
 と、手前の右手の比較的細い通りを示した。
 さきほど地下鉄を降りたときにホームで学生らしきひとに Leadenhall の綴りを見せて、
 これはどう発音するのか、と聞いたら、即座に
「レドゥノール」と言った。
 こういう発音は cockney ではないのか? 
 真似をして発音して、「レドゥノール」か、と言ったら、
「そうだ」ということだった。
 この女性は「レドゥンホール」と(丁寧な?)発音をしているし、教えられた道にも疑問があったので、
 べつな人に確かめて見ようと、回りを見渡した。
 黒っぽい(鼠色ではない)背広を着たビジネスマンが行き交っている。
 みんな急ぎ足で歩いている。
 そのうちのひとりに声を掛けたら、
「申し訳ない、いま急いでいる」と、
 急ぎ足を緩めないけれども、そのままこちらに顔を向けて、きちんと応答しつつ立ち去ってゆく。
 用があって急いでいるのだけれども、動作にせわしさがない。
 もうひとりそんなに急いでなさそうなひとに声をかけた。
 すると、たちどころに、
「レドゥノール・ストリートはこの道、向いの建物は Bank of England、右の工事中の建物は Royal Exchange 」と教えてくれた。
 安心して、教えられたレドゥノール・ストリートを東へと歩き、ロイズ保険取引所 ( Lloyd's of London ) 前まで行って、戻る。
 サークル・ラインに乗り、ベイカー・ストリートでベイカールー・ラインに乗り換え、リージェンツ・パーク駅で下車する。
 リージェンツ・パークの芝生で昼食をとる。
 この公園は小さい子供を連れた若い夫婦が目立つ。
〜〜〜〜
 再び地下鉄に乗ろうと、リージェンツ・パーク駅の改札を通り、ホームまで行く。
 すると、他のひとたちもそうだが、ホームにいる駅員に、
「この駅は閉鎖する。出口まで戻って、右の何とかへ行け」と言われる。
 他の人たちも、文句を言わず、言われるままに従う。
 じっさい、我々の出たあと、駅員がダイヤ型の格子のシャッターを横に引いて、出入りを遮断していた。
 地上に出て、地図を見てみると、右の方向へ(北東)歩いて3分ほどのところに、別な地下鉄の駅があるのがわかった。
 グレイト・ポートランド・ストリート駅というサークル・ラインが通っている駅だった。
 それで、その駅から地下鉄に乗った。
 そして、サークル・ラインの西方面行きに乗ったつもりだったのだが、
 次のベイカー・ストリート駅を過ぎると、様子が違って来た。
 電車は地上に出て、北東へ向かい、しかもしばらくの間さっぱり停まらない。
 車内の路線図を見たら、ベイカー・ストリートから郊外に逸れて快速のようになる、メトロポリタン・ラインという線だった。
 我々の持っているパスは Zone 1 用だが、都心の外のZone 2 にまで入ってしまった。
 やっと停まった Finchley Rd. 駅で、戻るために、ブリッジを渡った。
 今度はよく確かめて、ノーザン・ラインの東方面行きに乗った。
 ボンド・ストリートまで下って、そこで Hammersmith & City Line に乗り換え、鉄道のパディントン駅のプラットフォームへ出た。
 この Hammersmith & City Line は、地下鉄パディントン駅が鉄道の終端駅パディントンのホームの先端(西)に位置していた。
〜〜〜〜
 パディントン駅で用を済ませてから、また地下鉄でロンドンの町なかへ戻った。
 ニューおよびオールド・ボンド・ストリートをグリーン・パーク駅の方向へと歩き、
 再び、地下鉄ピカディリィ・ラインに乗り、サウス・ケンジントンでサークル・ラインに乗り換えた。
 サークル・ラインは、他にもう1本から2本のラインと線路を共有している。
 そして、さらに、サークル・ラインと平行する別個の隧道(Tube) が加わっているところもある。
 2本のラインを共有しているホームで、少し注意して見てみたら、
 例えば District Line は車輛の横にそれと表示してあり、Circle Line の電車は横には無く、車輛の前面にのみラインの表示がしてあった。
〜〜〜〜
 サウス・ケンジントンから乗ったとき、車内はけっこう混んでいた。
 乗車口から右手の右側の3人掛けベンチ・シートの真ん中のひとつが空いていたので、そこに腰を下ろした(電車は左の方向に走っていた)。
 知らずに乗って座ったのだが、電車の最後尾の車輛の、その一番後ろのベンチシートだった。
 連れどもは左手の方の通路に立っていた。
 次の駅グロウスター・ロウドを過ぎたころからだったろうか、何かの臭いがするようになったような気がした。
 が、別に気に留めてはいなかった。
 次のハイ・ストリート・ケンジントンで、両脇の席の乗客は降りた。
 車内がだいぶ空いてきた。
 連れが、左の方、離れた向かい側のベンチ・シートに腰掛けているのが見えた。
 次のノッティング・ヒル・ゲイトに着くと、車内はガラ空きになる。
 すると、やたらと着込んだ、中年の柄の大きな男が、目の前をゆっくり横切り、向かいのベンチ・シートにドカッと座った。
 体型は、ひとり分の席では間に合わないぐらいに膨らんでいる。
 さきほどの臭いの原因はこの男であることがわかった。
                    (To be continued)
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