'02年・イギリス瞥見の巻
8.チェスター散策あるいは食物探索
 ポットの湯があっという間に沸く。
 正真正銘の瞬間湯沸かし器だ。
 日本の倍以上の電圧(240ボルト)のせいであろう。
 テレビの Northwest Tonight という番組で、ストのニュースを流していた。
 ブリテン島の西側を、主に南北に走らせている First North Western という鉄道会社の Driver Strike ということだった。
 朝、まず散歩と明日のバスの確認を兼ねて、チェスター駅まで歩いてみた。
 駅でバスの時間の念を押して、乗り場を聞いただけで、町へ戻って来た。
 迂闊なことに、ぜんぜん思い付かないでいたのだが、娘が Virgin Trains / Route timetable / VT1 という小冊子を貰ってきていた。
 それを見たら一目瞭然。
 オペレータ Virgin Trains の列車は普通に動いていて、クルー(Crewe)10時発というのは、ブリストル発アバディーン行きの特急だということがわかった。
 どこの駅に何時に停まるのかも、こと細かに載せてある。
 つまり、時刻表の分冊だった。
 平日、土曜、日曜に分けて表示がしてある。
 これがあれば、駅でうろうろすることはない。
 発車番線だけを確認すればよい。
 いやはやまったく、「負うた子に教えられ」というところだ。
 諸々のオペレータがそれぞれに、このような種類の分冊を発行しているのがわかったので、
 その後は、必要な度ごとに、駅のインフォメーションのラックで探したり、窓口で要求したりして、手に入れた。
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 町中の商店街を見て歩く。
 この日は、そもそもは、列車でランドゥドノウ駅 (Llandudno) まで行き、そこからコンウィ城まで歩き、コンウィ駅からまた列車に乗り、帰ってくること、を考えていた。
 宿の主人は、コンウィまでの往復はバスでもできる、と言ってくれた。
 が、列車で17、8分のクルーまで、バスで戻るには1時間近くかかるのだから、
 列車で50分(?)のコンウィまで、バスで往復すると、一日がかりになりそうである。
 明日の朝は早く出なければならないことだし、と、取り止めにした。
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 宿は、家族経営の様子で、息子らしき人が手伝いをし、
 背の高い、気弱で実直な執事、風な主人がもっぱら、我々の応対をしてくれた。
 朝食は、ベイコンと掻き卵を頼んでみた。
 6日間食べたロンドンの宿のものは、それはそれで満足して食べてきた。
 だがそれに比べると、この宿のものは、ベイコンも、掻き卵も、マッシュルームとトマトさえも品質と料理の仕方が異なり、段違いに味がよかった。
 ロンドンの宿ですでに、ベーコンとは、ハムとは似ても似つかぬものであること、がわかったが、この宿では、ほんとうに、認識をあらたにした。
 どちらかと言うと「豚の焼肉」(ドイツ語では Schweinebraten だが、英語では roast pork という表現にでもなるのだろうか、)に似ているが、
 それよりは(燻製のゆえにか)もう少し身が締まっており、ちょっと塩気がある。
 明日は、この食事を断り、早出をしなければならないとは、ストのためやむを得ないとはいえ、まことに心残りだ。
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 ちょうど昼時、ウォーターゲイト・ストリートとブリッジ・ストリートとの交差点で、中世のすがた格好の市の役人(?)が、昨今のニュースを、当意即妙のコメントを加えつつ、読み上げる。
 それはもう大熱演で、集まった人たちの喝采を浴びていた。
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 ドイツでの経験でいえば、こういう古い町には、昔から土地のひとが食べているおいしいものがあるはずである。
 肉やとかパンやなどを覗きながら、町なかを歩き回った。
 すると、ポーク・パイだけでも、いろいろなものが並んでいた。
 そのうちのプレイン・ポーク・パイなるものを、古典的なものと思い、試しに買ってみた。
 ポーク・パイなるものも、名前だけは知っていても、中身がこういうものとはぜんぜん知らなかった。
 葬式マンジュウの、餡の代わりに(ハムをもう少し圧縮したような)肉がびっしり詰めてあって、どっしりとしていて、重たい。
 味もまた格別である。
 その後、何度も食べたが、何度食べても飽きない味だった。
 このポーク・パイひとつだけでも、イギリスの食べ物も、まんざら捨てたものではない、と思えるほどである。
 連れが、あるパンやで見つけた、フルーツ・タートも、味見をしてみた。
 カラントやグースベリィやラズベリィを載っけたもので、これもいい味だった。
 そもそも、クリームそのものの味がよい。
 ぜんぜん甘ったるくない。
 キングプラウンのサラダもよかった。
 これは要するに輸入もののエビを使っているのだが、半生のような茹で方で、マヨネーズで和えている。
 このプラウンはサンドイッチに挟んだりもして、かなり利用されていた。
 キドニィ・パイとかブラック・プディングも買ってみたかったのだが、
 いちどには食べきれないかと思い、止めにした。
 こういうものを食べるためにも、地方都市に、もう少し日にちを割くべきだったかもしれない。
 結果論だが、ロンドンとかエディンバラといった大きい町では、昔からの小店というのを見つけにくく、イギリスの本来の食べ物は、手に入れ難かった。
 ものが、ないわけではないのだが、概して癖がなくなってしまっていて、その分、味がいまひとつもの足りない。
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 大衆的な The SunDaily Mirror を買う。Missing girls のニュースが紙面を賑わしている。
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