'02年・イギリス瞥見の巻
5.オックスフォード行きの車中
 ロンドンに着いてから今日まで、ほぼ毎日、雨がちなのと、気温も低いことから、雨ガッパそして上着代わりのヤッケを着て、歩いている。
 やっと、きょうは曇りから、だんだん晴れてきた。
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 宿の朝食が、土日は、ふだんより30分遅く、8時からである。
 ゆっくり十分に食べてから、出発し、地下鉄を乗り換え、パディントンに着いたときには、もう9時半になっていた。
 あらかじめインターネットで列車の出発時刻を調べておいた。
 わが家はいつも早起きなので、出かけるときは朝早い列車に乗る。
 そのつもりで、7時台から 9:05発のオックスフォード行き (Virgin Trains の特急)までしか調べていなかった。
 列車の発車時刻を示す電光掲示板を見るが、この駅のは文字が小さい、
 そして、三つのオペレータ(鉄道会社)それぞれの列車の表示がチカチカ点滅し、随時、変更がある。
 いったいどれがオックスフォードへ行くものやら、にわかには判別しがたい。
 しかも、発車プラットフォームの表示は、例によって、発車の10分前である。
 9時35分ごろに、やっと、
「9:48発 Oxford 行き(プラットフォーム)4」と出る。
"calling at / Slough / Reading / Didcot ... " とあった。
 念のために、4番線のホームの駅員に、乗り換えはないのかを聞く。
「ない」という返事だった。
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 車内で、向いに年輩の婦人が座っていた。
 話しかけるきっかけとして、
「さっき、駅の電光掲示に、calling at / Slough / Reading / Didcot ... とあったが、これは stopping at の意味なんですね」
 と言ってから、
「私は初めてイギリスに来た。イギリス人と英語で話すのも今回が初めてです。私は ASSiMiL の独習書 "l'anglais sans paine" (1976) と "la pratique de l'anglais" (1974) とで British English を学んだ。」
「おー、古い本ですね。」
「そうです。テクストには第一次世界大戦の戦闘の様子なども出て来ます。(もちろん、現在は、同社から、新しい本が、タイトルも変わり、出版されている。)それで、古い表現についてなのかもしれないが、いくつか質問をしたいことがあります。迷惑ではないか」
「ぜんぜん迷惑ではない。どうぞ」
と言うので、思い付くままに、あれこれのことを聞いてみた。
 その婦人の言では、ポリッジ (porridge) とシーリアルズとの違いは、要するに、hot milkcold milk かの違い、とのこと。
 「今の季節はシーリアルだが、冬はポリッジになる」
 これはこれで納得のゆく話ではある。
 最近よく見るシーリアルは乾燥食品だから、かならずしも、この婦人の言葉のような区分けではないだろうと思う。
 だが、いまどきの区分としては妥当するのであろう。
 スーパーに fresh porridge というのがあったが、こういうのがオリジナルに近いのではないか(レンジもコンロもないので食べていないが)、と想像した。
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 また、手紙の表書きとして A.J.Cox Esq. と書くのは、今は old man だけだと思う、とか、
 dowager duchesses といった表現は、若い人には理解できないかもしれないが、私たち年輩の者にはわかる、ということだった。
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 下手な発音で "There's lots of young gentleman 'll be glad 'ang on to you and borry your money, and then good-day to ye." といった文章を例に出して、
"Dropping aitches" など、コックニィのことについて少し現況を知りたいと思って、聞いてみた。
 が、こちらの知識が生半可なせいということが多分にあるが、オバサンも
「それは古い言い方ですね。コックニィについてなら、ロンドンでは、どこの地区、どの世代ということはなく、友人仲間同士で使っている」
 といった風な答えだけで、それ以上の説明はなく、少々残念ながら、コックニィの特徴についてよく認識している、というわけではなさそうだった。
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 若い女の車掌が、検札に来た。
 パスを見せてから、オックスフォードには何時に着くのかを聞いたら、
「11:48」と言う。
 向いの席の老婦人も、車掌に乗車券を見せるが、
 帰りの切符の方を、何を勘違いしたか、4枚にちぎってしまっていた。
 そのことを車掌にしきりに詫びる。
 車掌は、はじめ、「そういうものはもう使えない」とは言っていたが、
 婦人に同情したか、向うの着いた駅で事情を話してみるようにと勧める。
 その件がいちおう落着してから、車掌に、
「あなたはさきほど11:48 に着くと言ったが、本当に11:48 なのか? あと2時間近くあるが」
Sorry, ten forty-eight! スミマセン」
「日本語がわかるのですか。」
「ハイ、少シワカリマス。」
「それは驚いた。」
「オ父サンガ日本人デスカラ」
 と言い残して、さっと次の乗客の検札へと移っていった。
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「キングス・クロス駅の改修のため、ベイカー・ストリートとファリングドンの区間は、これから秋まで、週末はほとんど、(地下鉄の)電車は走らないから、他の路線を利用してもらいたい」
という内容の表示が、

サークル・ラインの車内に

掲示されていた。
 そのせいか、ノッティング・ヒル・ゲイトでセントラル・ラインに乗り換えようとしたら、ホームには、ラッシュアワー並みに、溢れるほどの人がいた。
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